びっくりレポート

 タカコ・グレッグが日本を離れてから、日々のできごとや見たこと聞いたことを、みんなにレポートします。お楽しみに!


びっくりレポート022号

11月8日(日曜日)

ウォレアイ社会で大切なこと

 今年初めてウォレアイのことを知ったみなさんに、去年から学んだウォレアイの社会のことを少しお話ししましょう。

 スペインやドイツ、日本やアメリカが関わった歴史などについては、参考資料として届いているはずなので、社会の価値観についてです。

 ミクロネシア連邦ヤップ州では、ヤップ島以外の小さな島々は、離島と呼ばれていますが、そこでは基本的に人々は自給自足で、人の営みは自然のサイクルの中にぴったりとはまっています。飲み水は雨。トイレとお風呂は海。

 ここで育てたタロイモやパンノミ、パパイヤなどたくさんの植物と、海で捕ってきた魚を、ココナツを調味料にして調理します。残り物は、ニワトリとブタといぬが処理し、ココナツのカラは燃料になります。葉っぱや若いココナツのカラは、バナナの根本で肥料になります。

 電気がない島もたくさんあるし、島によっては、あえて一切の現代利器を望まず、昔ながらの暮らしを続けています。そういった場所には、積み重なった大きな暮らしの知恵が脈々と息づいています。

 ウォレアイ環礁のうちでもっとも大きな島ファラロップには、滑走路があって、二週間に一度、7人乗りの小型飛行機が飛んできます。つまりここには、よそからのモノや人、文化が持ち込まれやすいのです。

 過去、日本が海外援助政策として、島の人たちが魚を保存しておけるようにと巨大な冷蔵庫を贈り、その冷蔵庫を動かすために大きな発電機をプレゼントしました。冷蔵庫は壊れてしまって、ただの倉庫となっていますが、人々はその発電機を使って島中に電気を回しました。

 電気の入り方は消極的で、幾つかの街灯と家の中の電気一つ、冷蔵庫、扇風機。家によってはテレビとVCRを持っています。でも電気が入って、社会のいろいろなことが変わってきました。

 夜、メンズハウスに集まったり、おじやおばの家を訪ねたりしながら、子どもたちは島で生きる知恵を授かっていたのが、自宅でビデオを見ているようになりました。文化の継承の大切なルートがなくなっています。

 一人で泳いで魚を捕りに行っても、たくさんとれたら近所や親戚に分けていたのに、今では全部自分の冷凍庫に突っ込んでしまいます。

 ウォレアイの人々はしかし、「便利なもの」に頼りきっていないのです。

 マグロがたくさん捕れる漁場がありますが、そこにはカヌーでしか行ってはいけません。モーターボートで行ったら、ボートもエンジンも没収です。カヌー作りは、自分たちで木を切り、手おので削りながら少しずつ作っていく、高度な技術です。帆を張って帆走します。昔はパンダナスで帆を編んだそうですが、今はキャンバス地のようです。

 車を1台だけ入れたら、いつのまにか3台になっていたといいます。最終的には1台だけしか必要ないと決め、壊れても取り換えないことにしています。去年、車は3台ありましたが、今年来てみたら2台だそうです。壊れた1台は「ゴミ」として置いてあります。

 ここでは、現金が伴う定期的な仕事は、学校の先生と郵便担当官、飛行機のエージェント、小さなお店のマネージャー、ヘルスエイド(保健士)くらいでしょうか。コプラやタカセガイを売るなど、現金収入は他にもありますが、それは個人に入るのではなく村ごとや島全体の収入です。

 島での暮らしを見ていると、「助け合う」ことが基本になっています。

 島には5つの村がありますが、人々はまず家族(大家族です)で助け合い、近所で助け合い、親類同士で助けあい、男同士で助け合い、女同士で助け合い、村の中で助け合い、島全体で助け合い、環礁のほかの島々と助け合っています。

 屋根のふき替えも、タロイモ植えや、草むしりも、みんなで協力してやります。作業だけでなく、誰かが病気だと言えばみんなで食べ物を持ちより、誰かが死んでしまったら、10月末の時のように島中で哀悼の意を表し、残った家族の世話を焼きます。

 子どもたちは、たった一人もしくは二人の親が育てるのではなく、近所の女たちがみんなで面倒を見ます。父親が事故で死んでしまっても、必ず子どもが育つようになっています。年をとって死ぬまで、必ず複数の誰かが愛情をもって世話を焼き、親族一同が常に気にしています。いわば安全保障システムが確立しています。

 子どもが家族や地域で働くことが大切にされているので、学校も金曜日は「文化の日」と言って、子どもたちが地域活動に加われるようになっています。

 地域で伝承される技術や知識で暮らしが成り立ち、生存が可能になっているからです。

 助け合いと似ていますが、ここでとても大切なのが「分かち合い」です。

 長老たちの大切な仕事は、捕れた魚の「分かち合い」。みんなで魚を捕りに行ったら、その量に応じて村や島、全員に渡るように分けます。

 歩いていると、そこらじゅうから「ブト モンゴ」(来て、食べなさい)と声がかかります。知っている人いない人、関係なしです。ヤシの実を割っているところにとおりかかると「飲んでいく?」と誘われます。おじいさんが日本語で「バナナ、食べていきなさい」。

 日本やアメリカなどの産業国では、どれだけ所有しているかが豊かさの指標の一つのようですが、ここでは、分かち合うことで自分も相手も豊かになっているような気がします。

 ここでは一人もしくは「私」よりも、みんなもしくは「公」が前に出てきていて、そうすることで個人の安全が保障され、一人一人の特性や個性が公のために生かされ、役割が決まっていくようです。

 フランシスコの娘の一人、ジュリアーナとさっき話しをしていました。

 彼女は、こういった島の文化のエッセンスでもあることの根っ子は、「チーフたち」だと言いました。「たまには作業をなまけたいと思っても、チーフが言うからやらなくてはならないって行くのよ」。

 チーフはこの島に5人。チーフ補佐が4人。大切なことは、彼らが集まって決定し、島の人たちはそれに従うことになっています。人々が彼らを敬い、従うことで島の秩序が維持されていっていると言ってもいいでしょう。

 去年、島で大切なことは何ですか、という質問をしたら、「敬意を払うこと」という答えがたくさん返ってきました。

 チーフを、長老を、いとこを敬う、おじおばや兄弟を敬うことで、規律が成り立っています。チーフに使う敬語も特別にあるそうです。

 暮らしの変化によって、助け合いを基本としたコミュニティが崩れてきたヤップ島で、老人がこんなことを言っていたのを思いだします。「個人の自由とかで、責任や伝統を忘れてしまった。子どもは大人の言うことを聞かなくなったし、大人はチーフの言うことを聞かなくなった」

(報告:大前純一)



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